オリーブへの驚きと期待
例えば、三洋電機である。
同社は、三洋電機クレジットを中心とする金融部門を強化した。
主力銀行である住友銀行からも多くの人材が移籍したが、本業が苦境に陥ると、さすがに三洋電機クレジットをGEに売却し、三洋は本業に回帰して再建をはかることにした。
ソニーも金融部門を強化し、ソニー生命を成功させ、またオンライン証券のマネックス証券の「産みの親」ともなった。
しかし、日本人の誰一人としてソニーがやがてエレクトロニクス部門を捨て、金融業を本業とする会社になるとは考えないだろう。
しかし、いまやアメリカにおける中心産業は金融であり、二○○七年には企業収益の四割を占めていた。
アメリカにおける金融業は、「モノ作りができなくなったから発展した」とさえ言えるかもしれない。
自動車、電機という代表的な産業をGM、GEの例で見てみたが、アメリカのあらゆる産業で「モノ作り」ができなくなりつつある。
その結果、二○○七年の貿易収支の赤字は七千百十六億ドルにのぼっている。
対日、対中国、対ヨーロッパ、対カナダ、対メキシコ、対産油国など、すべてアメリカは赤字を抱えている。
一九八○年代からこのような状況が続いた結果、アメリカは金融に注力せざるを得なくなったともいえる。
世界中に垂れ流したドルを還流させなくては、国はもたなくなってしまったのだ。
第二次大戦後、海外に垂れ流したドルは、やがてヨーロッパで「ユーロ・ドル」と言われる市場を形成し、その中心はロンドンのシティとなった。
そして、経済上の国境が取り払われると同時に、ウォール街も世界の金融市場の中心となってきたのである。
ここに投資銀行や国際商業銀行の大きな活躍の場ができた。
また、つい三十年ほど前までは、世界貿易の決済通貨は英ポンドと米ドルだった。
ここにロンドンのシティや、ウォール街が発展する基盤が形成された。
ちなみに日本円は、国際決済通貨としては使われていなかった。
第二次大戦の敗戦国だからだ。
東京をシティやウォール街の金融都市と並ぶ国際金融都市にしようとしても、歴史的に見て非常に困難だろう。
しかし、私はそれでいいと思っている。
東京を国際金融都市にと闇雲に突っ走る、日本人が「モノ作り」を忘れて、金融事業に没頭するというのは、「日本人が日本人であることをやめる」に等しい愚案だと思うからだ。
日本人は、どんな時代であっても「モノ作り」にこだわる国民である。
モノ作りが好きで、モノ作りが得意なのだ。
無理をしてアメリカを真似る必要などまったくない。
仮に真似したところで、彼らに勝てるとも思わないし、また彼等自身、自らの強欲をコントロールできずに、結局は自ら墓穴を掘り、奈落の底に転落している。
彼らを真似することが賢い選択だという結論は、逆立ちしても私は出せない。
過去「護送船団方式」であったと言われても、バブル発生以前まで、戦後の日本の産業をみごとに復興させるために重要な役割を果たしたかっての邦銀の方が、よっぽど立派な仕事をした。
「護送船団方式」はアメリカ政府の批判の対象だったが、現在アメリカ政府はまさに同じことをして、ファー・メイ、フレディー・マックなどの金融機関を救済し、住宅ローン証券市場については、市場丸ごと実質上国有化している。
大手投資銀行や商業銀行にもたつぶり政府資金が入っている。
連銀がたっぷり貸し込み、資本勘定にも政府資金がたっぷり入っているのだ。
スイスでは、いまだに機械式の腕時計を造っている。
イタリアの職人はいまだに素晴らしいハンドバッグや金のネックレス、靴、ストラディバリウスのバイオリンを作っている。
そしてブランドを磨き、世界の消費者に販売している。
これらの製品を作っている工房の多くは、営々と続く家業であり、株式未公開会社だ。
そこにどんな問題があるというのであろう。
「モノ作り」に長けた人は、「モノ作り」で生きてゆくのが一番なのだ。
「読み書き算盤」をウォール街流にすることは、「世界で商売するためには英語ができなければしょうがない」といった程度のことでしかない。
日本人の魂まで売り渡して金融立国など目指すべきではないのである。
金融業は金融業で、国民が必要としているものを、自分たちに相応しい形で提供するように努めるのが筋で、外国のものの下手な真似事をすることは、言語道断である。
この世で最も強欲な職業前述したように、住友銀行員だった私は、経営哲学に魅力を感じたゴールドマン・サックスに転職して渡米。
ニューョークでの生活をスタートさせたのは一九八四年のことだった。
以来二十四年、この地で投資銀行家として仕事をしてきた。
九二年には、私自身の投資銀行「ロバート・ミラー・C」を創業することを米国証券取引委員会に許され、以後は自分や仲間が信じる「投資銀行としてのあるべき姿」を追求してきた。
私どもは、「顧客にサービスすること」を業とする金融機関である。
現在の東京では、ゴールドマン・サックスなど外資系の投資銀行は、大学生にとって最も人気のある企業の一つになっているそうである。
しかし、彼らには「ちょっと待って欲しい」と言いたい気持ちを強く持っている。
今、私は自分の職業が「投資銀行家である」と言うことに時に晴曙する。
何故ならば、この十年の間に「投資銀行家」は「この世で最も強欲な職業」というイメージが余りにも強くなってしまったからだ。
この間、ウォール街で仕事をしていて痛感することは、限りなく大きくなってしまった人間の「強欲」であり、これに侵された「強欲資本主義」の広がりである。
そう感じるのは、何も私だけではない。
アメリカ大統領予備選挙中に、民主党のオバマ、エドワーズ、共和党のハッカビーといった候補者は、中産階級、低所得層の人々に眼差しを向けて、「ウォール街に耳を貸すのではなく、メイン・ストリートに耳を貸そう」と演説していたほどだ。
この「強欲」の拡張を止めるものは、市場の自然浄化と言うべきか、「崩壊」というショック療法以外に何もないだろう。
それは既に起こりつつある。
しかし、この「強欲」という病は伝染力が恐ろしく強く、「金融のグローバリゼーション」という波に乗り、「強欲資本主義」という形でヨーロッパや日本にも、あっという問に伝播してしまった。
もともと「強欲」という病は、国を問わず、誰の心にも寄生している。
それが一度発病すると、とても始末に負えない。
長く、辛く、根気のいる治療が必要になる。
日本でも八○年代後半から九○年代にかけて、土地バブルの発生と崩壊という形で、人の心に染み付く「強欲」の恐ろしさを十分に経験した。
そして、日本経済は、その崩壊から、実に十五年という長い時間をかけて、ようやく体力を回復させてきた。
日本の「強欲」という病は、さまざまな施策・対策というワクチンのおかげで完治したかに見える。
しかし、私の目で見る限り、完治できていないどころか、「強欲」のウイルスは、巧みに姿かたちを変えて耐性をつけ、以前にも増して強力な姿になっているように思えてならない。
日本にも広がる強欲資本主義土地バブルが日本独特の風土病であったとしたら、現在の日本に広く浸透している「強欲」は、明らかに新種のものだ。
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